満月なのでご紹介します。

社会問題(特に動物問題)と読書のブログ

動物愛護の際に批判される擬人化や、動物の感情について

動物愛護に関する議論において、よく目にする批判が擬人化に関することです。

 

例えば、出荷される牛が目から涙を流すのをみて、

動物に共感の強い人は「牛が悲しんでいる」と言い、

動物に共感の強くない人は「物理的な反応だ」と言う傾向があります。

 

動物園で常同行動(ストレスの一種で、同じ場所を徘徊するなど、同じ行動を繰り返すこと)をするライオンを見て、

動物に共感の強い人は「退屈なんだな」と思い、

動物に共感の強くない人は「退屈なんて思うわけがない」と思う傾向があります。

 

このように動物に対する共感の強い人は人間の感情に照らし合わせて解釈しようとします。ですが、この擬人化が正しくないということで批判されることがあります。

このことについて考えていきたいと思います。

 

そもそも感情とは?

動物に対する考え方の違いには、人以外の動物が感情を持つのかという立場の違いがあります。

この問題に簡潔に答えると、科学的に考えて、人間だけが感情を持つとうことなどあり得ないということです。なぜなら私たちヒトも地球に存在するただの一つの種族であり、他の動物たちと分岐した進化を遂げただけだからです。そして、脳の中でも感情を司る部分は多くの動物に共有の非常に根源的なものであり、ヒトが初めて感情を持つようになったという考え方は科学的にも確率的にも説明に無理があります。

もちろん、人間は言葉や文字を発明したことにより他の動物よりも感情のレパートリーが多い可能性がありますが、しかしそれは他の動物たちが感情を持たないという証拠にはなりません。

なので、動物たちにも感情があるというのは科学的に考えても疑いのない事実であり、この考えが覆ることはないと確信しています。

感情についてヒトに固有のものではないという視点に立って、次は擬人化のことを考えていきたいと思います。

 

擬人化に対する批判について

先述したように動物に対する擬人化は批判されることがあります。

その中でも私が特に違和感を感じるのは「動物の気持ちなんてわかるわけがないんだから、いたずらに擬人化してその感情を考えることはしてはいけない」という意見です。

擬人化してしまうと必要以上に個人の考えが入ってしまい、正しく動物たちのことを理解できないというのがその主張の根底にあります。

 

しかしながら、私たちは他人の感情を推測する際にも擬自分化しています。そして、その擬自分化はしばしば間違えます。

友達が涙を流すのを見て、その友達になりきって悲しむことはできません。できることは自分の経験や友達の置かれた状況などから友達の感情を推測することです。また、恋人や結婚相手ほど親しい仲でも思っていることを誤って解釈して破滅的な結果に陥ることもあります。

このように多くの人が経験している通り、他人の感情の推察はよく間違います。

しかしながら、それでも私たちが擬人化を行うのはそれが他者を理解するもっとも効果的な方法だからです。

 

この擬人化が時として間違った解釈になることも、それでも効果的な方法だということは動物に対しても同様です。そこは動物愛護に批判的な人たちの意見も正しいです。

私たちは犬の気持ちを犬の頭や犬の言葉で理解することはできません。自分の経験や犬の雰囲気などから総合的に判断して、擬人化し感情を理解しようとします。

繰り返しますが、動物に対して擬人化を行うことで感情の解釈の間違いは起こりえますが、それが他者(ヒト以外の動物を含む)を理解する上で最も効果的な方法です。

 

そして、きっと動物もまた私たちのことを擬動物化して見ています。例えば、飼いネコが私たちの元にネズミをくわえて持ってくるのは、彼らが私たちのことを擬猫化していることに他ならないのではないでしょうか。

 

まとめ

擬人化に関することを書きました。

書きたかったことは、この二つです。

①動物が感情を持っていることは間違いがないこと

②擬人化は間違うことはあるけれども、他者を理解する効果的な方法であること

 

そして、何より伝えたかったことは、動物に共感の強い人と弱い人の不必要な軋轢を無くしたかったんです。意見の違いが生じたときに、このような考え方があることも知っておいて欲しいと思い書きました。

 

動物たちのとてつもなく広大な感情の世界については科学者たちの努力により、解き明かされてきています。今回の感情の話や擬人化の話で、動物の感情に興味を持たれた方は知っていってほしいと思います。

 

参考文献 

動物たちの心の科学 仲間に尽くすイヌ、喪に服すゾウ、フェアプレイ精神を貫くコヨーテ

動物たちの心の科学 仲間に尽くすイヌ、喪に服すゾウ、フェアプレイ精神を貫くコヨーテ

 

今回、書いた内容はこの『動物たちの心の科学』という本から思ったことがほとんどです。動物行動学者が書いた本です。

海外の本は読みにくいことが多いのですが、この本は一般の方向けに書かれた本なので非常に読みやすいです。また、動物たちの感情世界について科学的な知見を踏まえながら書かれているので非常に納得しやすいと思います。

2014年に発行された本なので新しい知見が多いこともオススメする理由です。動物の心を理解する上では間違いなくオススメNo.1の本です。

 

水族館ガール3 (実業之日本社文庫)

水族館ガール3 (実業之日本社文庫)

 

専門書風の本はちょっとという方には、水族館ガールという小説がオススメです。最近、松岡茉優さんが主演でドラマにもなっていました。

現在、4巻まで発売されていますが、その中の3巻で擬人化のことについて詳しく描写がされていました。

そもそも小説としても面白いですし、おそらく中学生くらいから読める内容になっています。擬人化のこととか抜きにしても、動物好きにはぜひ読んでみてもらいたい一冊です。