満月なのでご紹介します。

社会問題(特に動物問題)と読書のブログ

動物の解放/この世界に溢れる種差別を知って欲しい。

2018年1月更新

 

絶対に読まなければいけないと思っていた本を読み終えました。『動物の解放』という本は1975年に初版が出版されて以来、世界におけるアニマルライツ運動の最大の画期となった本です。(ちなみに現代の状況に即して、今は大幅な改訂が加えられた2009年版が出版されています。)

この本がきっかけとなって多くの動物が救われてきたことは間違いありません。 特筆すべきところは、感情的ではなく論理的な倫理の要求から動物を解放すべきだと述べているところです。

この本について詳しく見ていきたいと思います。

 

 

f:id:caffeyne:20170104223307p:plain

 

ピーターシンガーという倫理学者

1946年オーストラリアに生まれる。

2名のアメリカ大統領を輩出したプリンストン大学の現教授。

専門は応用倫理学(倫理学の知識を利用して、倫理上の問題を提起・考察する学問)。倫理学者、哲学者と呼ばれることも。

ザ・ニューヨーカー誌によって「最も影響力のある現代の哲学者」と呼ばれ、タイム誌によって「世界の最も影響力のある100人」の一人に選ばれたほどの人物。

 

シンガーは動物の解放の中で、ペットを飼っていたことは無く動物を溺愛したことは無いと述べています。

そんなシンガーが動物を救いたいと思うのは、感情の面からではなく倫理的・道徳的な観点からです。そしてそんなシンガーの立ち位置がよくわかるエピソードが本書にはちりばめられています。

そのうちの一つが、動物好きの女性に「動物に興味をお持ちではないのですか?」と質問された際のことで、以下のように答えています。

私は苦しみと悲惨の防止に興味を持っているのだということを説明しようとした。私たちは恣意的な差別に反対しているのであり、ヒト以外の生物に対しても不必要な苦しみを与えるのはまちがっていると考えているということ、そして私たちは動物たちが人類によって、無慈悲で残酷なやり方で搾取されていると信じており、このような状況を変えたいと思っていることを話した。

 

シンガーは抑圧と搾取に終止符を打たなければならないと考え、基本的な倫理原則の適応範囲はヒトのみに限られるべきではないと考えています。

 

動物の解放

シンガーがタイトルに解放という言葉を使ったことには意図があります。

それは、解放という名前を付けることによってその他の解放運動(本書では、例として黒人解放運動を挙げています。)と動物解放運動を同列に置き、動物の権利主張のための動物解放運動を促進することです。

先述したとおり、この本が動物の権利を向上させてきたことは間違いのない事実です。

しかしながらシンガーは本書の中で、他の解放運動と比較して動物解放運動には多くのハンディキャップがあることも述べています。

最初の、しかももっとも明白は障害は、搾取されているグループが自らの受けている扱いに対して、組織的な抵抗を行うことが出来ないという事実である。私たちは自らのために弁ずることのできないグループのために代弁しなければならない。

もし黒人たちが自ら立ち上がって要求することができなかったと仮定すれば、平等な権利を得るためにはもっと長い時間がかかっただろう、ということを考えてみれば、読者の皆さんにもこのハンディキャップがいかに深刻なものかわかっていただけるだろう。

動物解放運動の前途にとってさらに重要なことは、抑圧側(ヒト)のほとんどすべての成員が抑圧に直接関与しており、自らが受益者であることを知っているという事実である。

論理的に動物たちの置かれている立場と我々の立場を対比させ、その問題点を浮き彫りにしています。

また、別の場所でシンガーは動物解放運動のためには圧倒的な利他的な心が必要だと述べています。この辺りが人種解放運動などと比較して難しい部分です。

なぜなら、どれだけ動物を虐待したとしても、それらの不利益は全て動物たちが被ることとなり、他方で人が被る不利益はほとんどないからです。

 

動物虐待を維持するものは、無関心よりもむしろ無知である。

動物の解放の序文を紹介します。

2008年に何千万人ものアメリカ人が、夕方のテレビのニュースに登場した、あまり体調が悪くて歩けない牛が蹴られたり、電流を通じた棒でショックを与えられたり、目を棒でつつかれたり、フォークリフトで押しのけられたりして、屠殺され食肉加工されるために追い立てられれて行くところを描いた隠し撮りビデオ映像を恐怖と不信感を抱いて見つめた。 

これやその他の動物虐待隠し撮りビデオによって喚起された広範な嫌悪感は、米国における大規模で制度化された動物虐待を維持するものが、動物への無関心よりもむしろ無知であることを示唆している。

我々は、スーパーやレストランに並ぶ肉や卵がどのような生産工程を経ているのか、基本的には無知であり無知であるが故に無関心です。なぜならそれらの環境は消費者にはあまり目に見えないように巧妙に隠されているからです。

例えばスーパーで売られている日本の普通の値段の卵を産む鶏は、その生涯をA4のコピー用紙程度の場所で過ごしています。興味のある方はバタリーケージ等で検索してみてください。(ショッキングな写真が掲載されていることも多いので、それらを覚悟した上で検索していただければと思います。)

 

話が少しそれましたが、アメリカでの動物解放のエピソードから考えると、一度動物に対する虐待が目に触れさえすれば少なくとも無関心ではなくなることが示唆されているのです。好意的に解釈すれば動物福祉にこれまで興味のなかった方でも、知る機会さえあれば動物の解放の大きな原動力になりえるということです。

そして、これらのパワーを信じているのが一部の過激な動物愛護団体だったり、ショッキングな写真を掲載するHPなのだと思います。彼らの言い分もわかるので私は彼らを責めることはできませんが、『知ること』と『関心を持つこと』の間には少し隔たりがあると思います。

ここの溝を埋めるのが少しでも動物福祉を向上させたいと思う人々の役割だと思います。そしてそのためには過ぎた暴力は逆効果なのではないかと思うのが私の考えです。

『無知』を『関心』に持っていくために考え続ける必要があると思います。

 

種差別という言葉だけは知っていてほしい

本書において最も重要なキーワードは『種差別』という言葉です。耳慣れない言葉だと思いますが是非知っておいてください。

種差別とは『人』と『それ以外の動物』を種が違うという理由でのみ差別することです。

殺処分、実験動物、畜産、動物園動物、猟、毛皮。

そのどれらをとっても動物たちがおかれている立場は非常に苦しいものがあります。そしてその動物虐待の全ての根底に存在するのは種差別という概念です。

シンガーが本書の結論部分で述べていることを記載します。

本書の核心は、その属する種のみを理由として動物を差別することは偏見の一形態であって、これは人種に基づく差別が不道徳で擁護しえないのと同じように、不道徳で擁護しえないという主張である。

その生命に対する道徳的配慮は種や知性に依存するのではなく、その生命が苦しむ能力を持っているかどうかによって判断すべきだとシンガーは述べています。

そして、明らかに脊椎動物は苦しむ能力を有しています。

長い地球の生命史の中で、人類だけが苦しむ能力を進化させたなんてことはあり得ません。進化の系譜を辿っていけば苦しむ能力も喜怒哀楽も道徳観も人類よりも先に出現した動物によって発現したものです。それは科学の観点からも証明されている事実です。

同じ部分も異なっている部分もきちんと正視して動物たちへの理解を深めていくことが種差別撤廃の一助になると私は信じています。

 

おわりに

種における差別は撤廃し、動物を開放すべきだというのがシンガーの論理です。

動物福祉や動物愛護運動というと、かわいそうな動物を救いたいという思いや愛情をきっかけとすることが多いのではないかと想像しがちですがシンガーは違います。

(本書で私は)情緒や感情よりもむしろ理性に訴えてきたのである。私がそうしたのは、他の動物に対するやさしい感情や敬意の感情の重要性に気付いていなかったからではなくて、理性に訴える方がより普遍的で、うむを言わさぬものだからである。

私は同情と思いやりに期待するだけで、スピーシズム(種差別)のあやまりについて多くの人を説得することができるとは思わない。

 

シンガーの圧倒的に厳格な論理的・倫理的な動物解放の提唱は目を見張るものがあります。その論理の激しさ故に批判されることもあるようですが、動物解放運動に興味がある人にとって必読の書だと思います。

私が今回紹介したのはシンガーの論理のほんの一部で、シンガーの論理の展開や切り口に関してほんの少ししか紹介できていません。それでも、もし私の拙い文章でも興味を持っていただけた方は是非本書を手に取っていただければと思います。

 

動物解放運動や動物福祉にこれまでほとんど興味が無かった方もここまで読んでくださってありがとうございました。私からのお願いですが、どうかこの世界に種差別が溢れていることを知っていただき、何か一つでも、何か1ミリでも動物たちのことを思える行動をしていただけるとこれに勝る喜びはありません。

共に進んでいきましょう。

 

 参考文献 

動物の解放 改訂版

動物の解放 改訂版

 

amazonのレビュー欄にも、素晴らしいコメントが寄稿されています。

この本の理解の一助としてそちらもあわせてご覧ください。

 

また、私の尊敬する方も過去にこの本のことを記事にされております。

幅広い知識をもとにどのように動物解放運動が広がりを見せたのかということを非常に分かりやすく解説されています。

是非、こちらの記事も参考にしていただければと思います。

davitrice.hatenadiary.jp