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クジラの歌

生物多様性の理解と動物福祉の向上を目指して。

【感想/歌うクジラ】旅の先にあるものが私たちに希望をみせてくれる【村上龍】

読書

2022年、ハワイの海底を泳ぐザトウクジラから、人類は遂に不老不死遺伝子を発見する。だがその100年後、人類は徹底的に階層化され、政府の管理下に置かれていた。流刑地に住む15歳の少年アキラは、人類の秘密を握るデータを託され、悪夢のような社会を創造した人物にであうため、壮絶な旅に出る。(あらすじより)

 

この本を発見した瞬間に、クジラの歌というブログを運営する私が読まないわけにはいかないだろうという使命感にかられて読み始めました。

 

村上龍の作品について

唐突ですが、私は村上龍の小説があまり好きではありません。

コインロッカーベイビーズだけは読んだことがあるのですが、人間たちが本能むき出しでエロくてグロいという印象しかなかったためです。

 

でも、クジラの物語ならきっと楽しめるだろうと思ったのですが、何のことは無い。

クジラなんてほとんど物語に関係してこない。

そしてこの物語も本能むき出しでエロくてグロい。

 

なんでこんな小説を読んでしまったのかとずっと感じながら読んでいました。

村上龍文学を2作品しか読んだことが無い私が評するのは本質をとらえていない可能性がありますが、私にとって村上龍の小説はあまりにも暴力的すぎます。

そしてそれこそが村上龍の小説を異質なものにしていると感じます。

 

歌うクジラの異質さ

また、歌うクジラにおいては、『敬語の退廃』『あえて助詞を崩す人たち』『ボノボの生活を目指した人たち』など、文化的に現代とはかけ離れた時代が舞台です。

そしてそれらは不老不死遺伝子が発見されたことによる徹底的な階層化によるものだといいます。

この異質な世界の最下層である流刑地に生まれた人物こそが主人公のアキラです。

アキラは流刑地を無理やり脱出して、ただ一つの目的地へと突き進みます。

処刑される直前の父親から渡された世界を転覆させるというデータをある人物に渡すために。

その道中で、仲間を得ては仲間を失い、様々な過酷な目にあいながらそれでも目的地へと突き進みます。

いいことなんてほとんどない。笑うこともない。

 

世界観もそうですが、アキラを含めたほとんどの登場人物も現代人と全く思考回路や感情の動きを持つため非常に感情移入しにくいです。

ただそれでも読者を離さない、そんな小説を描くことができる村上龍の才能も素晴らしいとは思います。

 

この小説から何を感じるか

この記事を書くにあたって複数の方の感想を拝見させて頂きましたが、この小説は現代の風刺だという感想が多く見られました。

確かに、文化的に退廃した姿や階層化が起こす事象について考える一つのきっかけにはなりました。

 

それでもそもそもクジラに関する小説を読みたいと思っていた私にとっては退屈な感情を抱いたまま読み続ける必要がありました。

そんなこんなでどうにか頑張って、上巻を読み終えると下巻の帯には『紡ぎだされる新たな希望のかたち。』とか書いてあるんですよ。

嘘だろ。と。

こんな物語に希望なんてあるわけないと読み進めました。実際、やっぱりほとんど希望なんてなかったです。

主人公の持つ力と社会が持つ力に圧倒的な差があったため、爽快感もありません。

アキラはとてつもない距離を旅しますが、自身で目指しているのは最終目的地だけで、そこに至るまでの過程は全て受け身です。

そもそも目的とする人物がどこにいるのかもアキラは知らず、流刑地をほとんど離れたこともないのでアキラ自身ではほとんど行き先を決定できないのです。

一方で、その場その場の行動をどう決定するのかという点に関してはアキラは明確な意思を持って行います。

 

ただ、それでも過酷な旅に変わりはなく、アキラを助けてくれた多くの人が殺害されてしまいます。だから私はこの小説に最後まで希望は見いだせませんでした。

ただ、この物語の最後にアキラが一つの明確な答えにたどり着きます。

その最後の答えはアキラと一緒に壮絶なな旅をした読者にしか共感しえないと思うのでここでは記載しません。

ただ、アキラの旅もこの小説も間違いなくほんの10ページの最終章のためだけに紡がれたのだと理解しました。

最後の最後まで退屈な小説でしたが、最終章の素晴らしさ、アキラがたどり着いた答え、そしてそれに伴う読後感だけは圧倒的でした。

それらを希望と呼ぶのかもしれません。

この最終章のためだけにでも読む価値はあると断言できます。

 

よしもとばななによる解説のすばらしさ

そして、よしもとばななによる解説も素晴らしい。

難解な小説の解釈はやはり難しく、読者が孤独感にさいなまれる可能性すらあると思います。

でも、この小説は最後によしもとばななが寄り添ってくれる。この小説は難しいって言ってくれるし、自分が読みながら感じたことが間違いじゃないと教えてくれる。

解説があってこそ光る小説というものを始めて読みました。

 

よしもとばななの本も少なからず読みましたが、それらと比較しても本書の解説は素晴らしい文章だと思います。吉本ばななファンにも是非手に取っていただければと思います。

 

まとめ

非常に暴力的な小説です。全ての人にお勧めできるような小説でもありません。

ただ、それでも最後までアキラと一緒に旅をした人にしかわからない壮大な感動が待っています。

少しでも興味を持ってくださった方には、是非読んでいただきたい作品です。そしてその感想を共有させていただけたらこんなに嬉しいことはないです。

 

歌うクジラ(上) (講談社文庫)

歌うクジラ(上) (講談社文庫)

 

 

歌うクジラ(下) (講談社文庫)

歌うクジラ(下) (講談社文庫)