【感想/紙の動物園】ヒューゴー賞/ネビュラ賞/世界幻想文学大賞 同時受賞作【ケン・リュウ】
今回紹介するのは中国系アメリカ人のケン・リュウという、SFやファンタジーの短編を得意とする作家の、紙の動物園という作品です。
まずは、受賞タイトルについて
・ヒューゴー賞
・ネビュラ賞
・世界幻想文学大賞
これらを同時受賞です。
これら3タイトルの同時受賞は史上初とのことです。
ただ、SFファンでもなければ耳慣れないタイトルだと思います。
なので、まずはこれらの賞から紹介していきたいと思います。
紹介はしませんが、国内にて
・2016年本屋大賞翻訳小説部門第2位
・第6回Twitter文学賞海外編第1位
にも選ばれています。
今回受賞した3大賞の紹介
ヒューゴー賞
1953年の世界SF大会(ワールドコン)において創設された。現存する中で最も歴史の古いSF・ファンタジー文学賞である。アメリカSF界の功労者であるヒューゴー・ガーンズバックにちなんで名付けられた。 ヒューゴー賞は、ワールドコンに登録したファンの投票によって決定される。
wikipediaより
SFファンによって受賞作品が決定されます。
J.K.ローリングが『ハリーポッターと炎のゴブレット』で受賞しています。
- 作者: J.K.ローリング,J.K.Rowling,松岡佑子
- 出版社/メーカー: 静山社
- 発売日: 2002/10/23
- メディア: ハードカバー
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日本人の受賞歴はありません。
ネビュラ賞
アメリカSFファンタジー作家協会 (SFWA) が主催し、アメリカ合衆国内で前暦年に刊行された英語のSF(スペキュレイティブ・フィクション)やファンタジー作品を対象に授与する文学賞。ネビュラとは星雲のこと。
SF・ファンタジー作品に与えられる賞としてはヒューゴー賞と知名度を二分する。ヒューゴー賞は(ワールドコンに登録した)ファンの投票によって選ばれる賞であるのに対し、ネビュラ賞はSFWA会員(作家、編集者、批評家など)の投票によって選ばれる点が異なる。
※スペキュレイティブ・フィクションとは、さまざまな点で現実世界と異なった世界を推測、追求して執筆された小説などの作品を指す語。フィクションの複数のジャンルにまたがって使用される。
wikipediaより
専門家が選考するのがネビュラ賞です。
私が好きな受賞作家は『夏への扉』で有名なロバート・A・ハインラインです。
- 作者: ロバート・A.ハインライン,福島正実
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/01/30
- メディア: 文庫
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夏への扉は猫好きならば絶対に読むべき名作です。
こちらも日本人の受賞歴はありません。
世界幻想文学大賞
1975年に創設された、ファンタジー作品を対象としたアメリカ合衆国の文学賞。SFやホラーも視野に入れている。スペキュレイティヴ・フィクションに与えられる賞としては、ヒューゴー賞・ネビュラ賞に並ぶ三大賞のひとつと見なされている。
wikipediaより
これは村上春樹が『海辺のカフカ』で受賞しています。
村上春樹の作品も評価が分かれるところですが、海辺のカフカくらいは読んでみてもいいと思います。
何がいいのかと言われても説明できませんが。
話を紙の動物園のことに戻しますが、何が言いたかったのかというと、
紙の動物園という作品は世界のSFやファンタジーに関連するトップの3大タイトルを同時受賞したということが言いたかったんです!
ケン・リュウについて
経歴
1976年、中華人民共和国に生まれる。8歳(11歳という説あり)の時、両親とともにアメリカ合衆国に渡る。
ハーバード大学に入学し、法律を専門に学ぶ。ロースクールを出て、法務博士号を取得し、卒業後は弁護士、コンピュータープログラマー、中国語書籍の翻訳者として働きながら、文筆活動を行っている。
wikipediaより
作風
生まれが中国・育ちがアメリカという生い立ちがケン・リュウの作品に非常に大きな影響を与えています。
多くの作品において、主人公あるいはそれに近しい人物が中国人をはじめとしたアジア人になることが多いです。
また、自身の文化的背景になっている中国や日本を含めるアジアの歴史認識に関わる問題を客観的に問うあり方も中国生まれの人物としては非常に珍しいのではないでしょうか。
そして、ただそれらをそのままに描くのではなく、
J.K.ローリングのような色彩に満ちた魔法の世界を舞台にすることもあれば、
星新一のようなあっと驚くようなアイデアと共に描くこともあります。
これらの東アジアの認識とSF・ファンタジーの想像力が合わさることで、ケン・リュウは類まれなる作家として存在しているのだと思います。
表題作について少しだけ触れておきたいと思います。
紙の動物園
主人公の少年は中国人の母と白人の父のもと、アメリカに生まれます。
中国人の母は、折り紙に命を吹きこむとが出来ました。
母が生み出してくれた手のひらサイズの紙のトラや水牛に囲まれて、幸せな時間を過ごしていた少年ですが、アメリカで暮らすアジア人ハーフという環境から、成長するにつれて中国の文化を憎み、アメリカ人として暮らすことを望むようになります。
しかし母は生粋の中国人であり、中国人として生きていくことしか選べませんでした。
そこに生まれる母と少年の軋轢を、折り紙という魔法と共に描いていきます。
この表題作も短編なので、紹介はこの程度にしておきます。
まとめ
どうでしたか。
特殊な経歴を持つケン・リュウだからこそ描ける世界があります。
真摯に中国の歴史に向き合うからこそ、その過激な内容ゆえに中国語翻訳されていない作品もあります。
また、本短編集の中には、日本人の美しい自己犠牲を描いた作品『もののあはれ』という作品もあります。
中国の歴史が美しいものばかりではないように、本書に収録されている作品も美しい舞台ばかりではありません。
読了後の気分もさわやかなものばかりではありません。
ただ、それらのなかにも人の美しい心があることを認識させてくれます。
SFファンでなくとも、中国人による中国観を知る上で外すことのできない一冊だと思いますので、多くの人にとって読む価値があると思います。
魔法と東洋の文化がが見事に混ざり合ったケン・リュウの温かい作品に、一度触れてみてはいかがでしょうか。