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感想/二十一世紀に生きる君たちへ | 司馬遼太郎の願った二十一世紀とは。

数年に一度に生き方そのものを揺るがすような本に出会います。

司馬遼太郎さんの二十一世紀に生きる君たちへという本はまさにそのような本です。

 

この本に出会って以来、何かに迷ったときには定期的に読み返すようにしているまさに人生のバイブルです。

 

僕が司馬遼太郎の作品をほとんど読んだ熱狂的なファンということもありますが、この本だけは司馬遼太郎が好きとか関係なく21世紀に生きる全ての人が読むべき本です。

一人でも多くの人に手にとって頂けるよう紹介していきます。

 

司馬遼太郎が本を書く理由

司馬遼太郎さんは本を書く理由を以下のように述べられていました。

自身が太平洋戦争を経験したことからくる「なぜ日本人はこんなに狂ってしまったのか」という失望や、「昔の日本人はそうじゃなかったはずだ」という過去への希望。

そして幕末や戦国時代の美しかったであろう日本の英雄の「素晴らしさ」を広く知らしめたいという思い。

これらが数々の歴史小説を世に送り出してきた司馬遼太郎の原点とのことです。

だから司馬遼太郎は彼自身が生きた昭和のことは小説にしていません。これが同じ歴史小説でも戦争のことを書く山崎豊子とのスタンスの違いだと思います。

 

司馬遼太郎がなぜ小説を書くのかということについて語っているインタビューは大阪にある司馬遼太郎記念館で放映されています。

司馬遼太郎記念館は本当に素敵な場所なので、大阪を訪れた際には是非お立ち寄りください。

www.shibazaidan.or.jp

 

魂を削るほどの加筆と修正

二十一世紀を生きる君たちへという本は司馬遼太郎が65歳のときに書いたエッセイです。

わずか20ページ程度の文章であり、かつ小学六年生の教科書のために書かれた平易な文章です。

しかし「長編小説を書くほどのエネルギーがいりました」と司馬遼太郎が述べるほど自身の魂を削って書かれた本です。

どれだけ文章を推敲しているのかというと、上述した司馬遼太郎記念館で販売されている限定版を見ればわかります。

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この加筆・修正の量すごくないですか?これが全ページに渡っています。

少しでもわかりやすく、少しでも伝えたいことを伝えるという思いが伝わってきます。

これを見れば「長編小説を書くほどのエネルギーがいりました」というのも大げさではないと思い知らされます。

 

この本は二十一世紀に生きる私たちにとっての希望の書です。

綴られる言葉は温かく、そして司馬遼太郎自身の人生もこれから生きていく私たちの人生も光にあふれているのだと教えてくれます。

 

歴史の中にも友人がいる。

その中でも私が好きな部分だけ引用させて頂きます。

私には、幸い、この世にすばらしい友人がいる。

歴史の中にもいる。そこには、この世で求めがたいほどにすばらしい人たちがいて、私の日常を、はげましたり、なぐさめたりしてくれているのである。

だから、私は少なくとも二千年以上の時間の中を、生きているようなものだと思っている。この楽しさはーもし君たちさえそう望むならーおすそ分けしてあげたいほどである。

歴史の中に素晴らしい友人がいるという司馬遼太郎の感覚が大好きです。

私も司馬遼太郎の小説があったからこそ坂本竜馬や吉田松陰、石田光成などたくさんの友人が出来たと思っています。

書を捨てよ、街へ出よ。なんて言葉もありますが、書を通じてしか為し得ない友情もあります。

そのことを教えてくれる素晴らしい文章だと思います。

 

自分にきびしく、相手にはやさしく

もう一つ好きな部分がこちらです。

さて、君たち自身のことである。

君たちは、いつの時代でもそうであったように、自己を確立せねばならない。

--自分にきびしく、相手にはやさしく。

という自己を。

そして、すなおでかしこい自己を。

人にやさしくするということはどのようなことかということを紙面の大部分を使って司馬遼太郎は述べていきますが、このくだりの最後は以下の通りです。

君たちさえ、そういう自己をつくっていけば、二十一世紀は人類が仲よしで暮らせる時代になるにちがいない。

戦争のない平和な世界を誰よりも望んだ作家のひとりなんだと、改めて思い知らされる一文です。

 

そして本書の最後は以下のように締めくくられます。

君たち。君たちはつねに晴れあがった空のように、たかだかとした心を持たねばならない。

同時に、ずっしりとたくましい足どりで、大地をふみしめつつ歩かねばならない。

私は、君たちの心の中の最も美しいものを見つづけながら、以上のことを書いた。

書き終わって、君たちの未来が、真夏の太陽のようにかがやいているように感じた。

司馬遼太郎が未来を見据えて書いたまさに希望の書です。

 

おわりに

司馬遼太郎はこの本書の中で、自分は21世紀を生きられないとしています。

だから21世紀のことを『君たち』に託しています。その君たちとは他の誰でもない、21世紀を生きている我々です。

 

私たちは司馬遼太郎の理想としたような自己を確立した人間になれているでしょうか。

司馬遼太郎の思い描いたような21世紀を作れているでしょうか。

 

これまでのこともこれからのことも見つめ直す良い機会になると思います。

きっと多くの人にとって生涯を通して側にあり続ける本になるはずです。 

まだ全文を読んだことのない方はぜひ手にとってみてください。

二十一世紀に生きる君たちへ (併載:洪庵のたいまつ)

二十一世紀に生きる君たちへ (併載:洪庵のたいまつ)