【感想/獅子吼】今まで知る由もなかった動物園動物の持つ尊厳について【浅田次郎】
浅田次郎さんの新作短編集を購入しました。
購入の決め手となったのは、
ジャケットと帯に書いてある、
『ライオンも、象も、駱駝も、戦争はしてねがんす。』
という言葉でした。
表題作である、獅子吼(ししく)について感想を述べていきたいと思います。
ネタバレはほぼなしで行きます。
(ちなみに獅子吼とは読んで字のごとく、獅子が吼えることです。)
この作品は戦争に翻弄される人間とライオンの二つの視点から描かれます。
戦争に翻弄されて不幸な運命を辿ってしまうという物語は、
動物が出てくる出てこないに関わらずありふれているのは事実だと思います。
しかし、以下の1点のみだけでもこの作品は読む価値があると思います。
人とライオンの心理描写
個人的には、小説における動物の擬人化はあまり好きではありません。
(エンターテイメント小説となれば別ですが。)
ただ、この作品において人と擬人化された動物の心理描写とその関係性は非常にリアルで美しさすら感じます。
単に、ライオンを憐れむのではなく。
単に、人を憎むのではなく。
相手に対する尊重を。
自身に対する矜持を。
決して、喜びや幸せに溢れた時代背景ではないのですが、
時代に翻弄されながらも自分たちの正しいあり方を守ろうとした、
生命の美しさを感じることができます。
***
また、新たな飼育動物の心理描写を切り開いてくれた作品であるとも思います。
動物の心理描写なんて結局何が正しいのかわかりませんが、
だからこそ、様々なことを考える必要があると思います。
新たな価値観に触れられるという点でも価値のある作品だと思います。
短編集の一つの作品でここまで心に残る作品に出会えることも珍しいです。
一生ものの作品となりました。