『君の脾臓を食べたい』をオーディオブックで読んだら違う良さが見えた。
私は車での移動が好きではない。なぜならば本が読めないからだ。
しかしそれを解決する方法があった。
そう、オーディオブックである。
オーディオブックで有名なのはオトバンクという会社とそれの関連アプリであるfebeだと思う。
オトバンクはもともと視覚障害者のことを思って設立されたようである。
私もオーディオブックというのは聴覚障害者のためだけのものだとなぜか思い込んでしまっていた。
でも、それでは車に乗っている時間がもったいないのでこの度晴れてオーディオブックに挑戦した。
住野よるさんの『君の脾臓を食べたい』という小説が私にとっての初のオーディオブックであるが、それが思いのほか良かったので紹介したいと思う。
(この先はオーディオブックの紹介であり、君の脾臓を食べたいのネタバレはしないので安心して読み進めて欲しい。)
君の脾臓を食べたいを選んだ理由。
初めてのオーディオブックは絶対に小説にしようと思っていた。君の脾臓を食べたいを選んだのは良く書店で見かけたことと、febeで割引されていたことが要因だ。もうひとつダウンロードに悩んだのが中島敦の三月記だが、初めてのオーディオブックは簡単な方が良いだろうと感じたので中島敦は次回にすることにした。
その他に、君の脾臓を食べたいを選んだ理由は特になく、作品のことも著者のこともほとんど知らなかったが、結果としてこの小説を初めてのオーディオブックに選んで良かったと感じている。
以下に、君の脾臓を食べたいを通して見えてきたオーディオブックと目で読むタイプの小説(今後、通常の小説と記載する)について述べていきたい。
違い① 声がある。
声があるということの効力を私は侮っていた。
通常の小説では声すら頭の中でイメージするものであるが、オーディオブックではそれが許されない。ナレーターがイメージするキャラクターの声を受け入れざるを得ない。されに言えば、そのナレーターの声を通じてナレーターがイメージするキャラクター像が簡単に入ってきてしまう。
これは通常の読書を楽しんできた人にとってはいささか窮屈に感じる点だと思う。また、それに拍車をかけるのがナレーターが声優さんということだろう。
君の脾臓を食べたいは高校生の男女のちょっと変わった生活を描いていく小説である。主人公の男の子は鈴村健一さんが、もう一人の主人公の女の子は堀江由衣さんが演じられている。私は彼らの名前だけを見てもどれだけ凄いのかわからなかったが、wikipediaで見る限り両者ともにトップレベルの声優さんなのだろう。鈴村健一さんは、銀魂の人気キャラクター沖田総悟を、堀江由衣さんは化物語の羽川翼を演じている。私でも知っている有名アニメの花形のキャラクターだ。
すなわち彼らは日本のアニメをけん引してきた声優であり、声を通してキャラクターに息吹を吹き込むことに長けている人達である。なので良くも悪くも声優さんのイメージするキャラクターが簡単にイメージできてしまう。
正直、君の脾臓に出てくる女の子の声はかわいらしいアニメ声過ぎるきらいがある。絶対に私が通常の読み方をした場合にはイメージしなかった声である。男の子も同様に昨今のアニメに良く見られるやれやれ系(受動的に物事が進んでいきそれに対する諦観を持ち過ぎている系主人公のこと)を演じすぎている気がする。
だから、この小説を通常通り読んだ場合とオーディオブックで聴いた場合とでは全く異なる読み方・感じ方になっているはずだ。
声があるということが私が感じるオーディオブックと通常の読書の最大の違いだと思う。ただ、単純に私はこのことが嫌わけではなくむしろ楽しんでいる。本当に好きな作家さんの小説であれば絶対に最初は通常の読み方をしたいが、特に思い入れのない作家さんや(悪く言えば)あまり期待していない作品に関してはオーディオブックで楽しむのもアリだと思う。
また、日本に数多くいるであろう声優ファンの人がオーディオブックをきっかけに本を好きになってくれたら何よりうれしい。
違い② BGMがある。
ここまで書いただけでもオーディオブックは小説を単純に耳で聞けるものにしたものというよりも、映像のない映画、ラジオに近いものだと考えられる。
それを後押ししているのがBGMの存在だと思う。
オーディオブックには当然のようにBGMがあった。今のところ僅かにピアノの音が聞こえるくらいに留まっているが、もしかしたらボーカル入りの音楽が登場する作品もあるかもしれない。
あと、君の脾臓を食べたいに関して言えば焼き肉に行くシーンがあるが、そこでは焼き肉を焼く音が聞こえてくる。
これらのBGMも制作者サイドがオーディオブックをより良いものにしようという意図を持ってつけられているもののため、通常の読書とはことなる景色を読者の頭の中に描かせる作用が考えられる。
だが、これも文字だけを読む、あるいはセリフだけを聞くという読書法がどうしても苦手という人には役に立つことだと考えられる。もちろんそういった人にとっては、楽しい時には楽しい音楽を、悲しい時には悲しい音楽を流すことでイメージのフォローさえもできると思う。
違い③決められた読書スピードがある。
君の脾臓を食べたいはオーディオブックにして9時間5分の小説である。普段、本を読む人にとっては長すぎるくらいに長い時間になる。
febeの昨日の中には読書スピードを変更できる機能(1.0~4.0倍速まで)があるが、4倍なんて聞けたものではない。2倍だって正直早いので、私は1.2倍速で読んでいるがそれでもこの小説を読み終わるのに7時間半程度かかってしまう。
普通に考えたらやっぱり長い。映画よりもよほど長い。まぁこればっかりは諦めるしかないと思う。そもそも私は車内という隙間時間に聞く程度に考えているので時間の長さについては気にしていない。むしろ、通常の読書とは異なる時間の流れから見えてくることもあるだろう。
また、読書習慣のない人にとっては一定時間流すだけで読破できるというのはありがたいのではないだろうか。
違い④ 文字が無い
これも結構驚かされた。君の脾臓を食べたいという小説には、病気の女の子が書いた『きょうびょうぶんこ』という小説が登場する。私は最初、病に狂うという意味の『狂病文庫』かと想像力を働かせた。読者によっては『今日病文庫』などとイメージされる方もいるかもしれない。ただ、正解は病と共にいるという意味の『共病文庫』だった。これは物語の流れから解釈する、あるいは通常の小説にて確認するしか方法がない。
音を通して言葉が頭に入ってくるのにも関わらず、言葉が頭の中でもやもやしたまま残ってしまう。これも良く言えばオーディオブックの楽しみ方なのだろう。
確実に言えることは文脈を適切に追っていく能力と想像力がついていくのは間違いないと思う。
まとめ
読書が好きな人はオーディオブックを試した方が良い。通常の読書とオーディオブックの違いに気付き、それぞれの良さを感じ、読書の幅が広がること間違いなしだからである。スマホとアプリがあればそれ以上の機器は必要ない。また本の金額も高くなく、kindleと同じくらいをイメージしてもらえればよい。febeへの登録も無料である。
実用書はまだ読んでいないので評価しようがないが、物語のようにイメージや流れが重要でない部分もあるので、オーディオブックにより適している可能性もある。こちらも今後試していくが、きっと問題なく読む(聞く)ことができるだろう。
また、何度か述べたが読書が苦手な人にこそオーディオブックは適している可能性がある。これまでにもオーディオブックは聴覚障害者の方をはじめとする多くの人たちの幸福に貢献してきたと思うが、これから、オーディオブックが新たな本好きを生み出してくれることを願ってやまない。
君の脾臓を食べたいも良く売れているだけあって面白い。初めてのオーディオブックにおすすめである。